Léopold de Meyer: Grillen-Polka Op.130


今回は、「ライオン・ピアニスト」という渾名で知られたピアニスト・作曲家レオポルド・ド・マイヤーの《蟋蟀こおろぎポルカ Grillen-Polka Op.130》という作品を録音してみました。


この記事を書いている今(8月上旬)は夏の真っ盛りですが、あと1ヶ月もすれば、夜長に響き渡る蟋蟀の鳴き声が秋の訪れを感じさせてくれることだと思います。このような虫の声に風情を感じるのは日本人だけで、西洋人は虫の声を雑音と感じるなどとしばしば言われることがありますが、これは本当でしょうか?私には少し疑わしく思えます。それは、蟋蟀の鳴き声を題材とした西洋音楽を聴いてみればわかるかもしれません。古くはルネサンスの大家ジョスカン・デ・プレが《蟋蟀はよき歌い手》(参考動画)という作品を書いています。また、19世紀にも、アルカンの《蟋蟀, 夜想曲第4番 Op.60bis》(参考動画)など、蟋蟀を題材にしたピアノ曲がいくら書かれています。今回演奏したマイヤーの《蟋蟀ポルカ》もそのひとつです。これらの作品を聴いてみると、蟋蟀の鳴き声を日本人と全く同じような感性で受け取っているかはともかく、作曲家たちがその声を快いものとして認識しており、少なくとも単なる雑音や騒音とは認識していないことは明らかであると感じられるはずです。





マイヤーの《蟋蟀ポルカ》は、彼の独創性が発揮されたユニークな作品であると私は思います。構成は以下のような感じです。

A-B-C-A-B - D-E-D-E-F - A-B-C-A-B

冒頭Aは、この曲の中でも特に独創的な部分です。装飾音を巧みに用いて蟋蟀の鳴き声が描写されますが、アルカンの《蟋蟀》よりもリアルな描写で、虫の声がささやかに響く静かな夜の草叢の空気がよく醸し出されています(譜例1)。そして、Bでは、この装飾音を用いた鳴き声のモチーフが愉快なポルカへと変貌します(譜例2)。C~FもB同様に可愛らしい舞曲となっており、Aほどの独創性はないかもしれませんが、蟋蟀の鳴き声を思わせる高音部での装飾音やトリル、半音階が随所に散りばめられています。

grillen-polka 1
▲譜例1

grillen-polka 2
▲譜例2


アルカンの《蟋蟀》は、蟋蟀が他の動物に襲われている情景を想像させるような不穏な雰囲気の中間部が挿入されるなど、彼独特の世界観が表れていると思います。一方、マイヤーの《蟋蟀》は、終始楽しげな雰囲気ですが、装飾音や厚い和音によって作り出される音色に彼の個性が発揮されていると思います。



9月10日追記
この作品を献呈されたフリーデリケ・ゴスマン(Friederike Goßmann, 1836-1906)はドイツの女優で、「愛の妖精」という邦題で知られるジョルジュ・サンドの小説『La Petite Fadette』を原作としたシャルロッテ・ビルヒ=プファイファー(Charlotte Birch-Pfeiffer, 1800-1868)による戯曲『Der Grille』(1856)でヒロインのグリレ(Grille)を演じました。Grilleには蟋蟀という意味があり、この曲は、この戯曲の中の場面からインスピレーションを得て書かれたものである可能性が高そうです。

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