Theodor Oesten: Feen-Märchen Op.73-3 ほか

今回は、《人形の夢と目覚め Op.202-4》や《アルプスの夕映え Op.193》、《アルプスの鐘 Op.175》などといった子供向けあるいは発表会向けの小品で知られるテオドール・エステンの作品を録音してみました。



《メルヘン幻想曲集 Märchen-Fantasien Op.73》 より 第3曲〈妖精のおとぎ話 Feen-Märchen〉

《メルヘン幻想曲集 Op.73》は、全6曲から成る曲集のようですが、私が楽譜を確認できたのは第3曲〈妖精のおとぎ話〉のみです。多分、独語のFeen-Märchenは、英語のfairy taleのように2つの単語で「おとぎ話」を意味する熟語だと思いますが、同曲集には他に〈ジプシーのおとぎ話 Zigeuner-Märchen〉や〈愛のおとぎ話 Liebes-Märchen〉といった題の曲が含まれていることを鑑みて、あえて「妖精のおとぎ話」と訳しました。

この曲は、ファンタジックな雰囲気がよく表れており、エステンの作品の中でも完成度の高いものだと思います。構成は以下のようになっています。

序奏 - [A - B - A'] - [C - D - C'] - E - A' - F

序奏は、素早いトリルやアルペジオが妖精の羽ばたきを髣髴させます。まるで、羽音に導かれて妖精の国に迷い込んでしまうかのようです。A - B - A'は3拍子のワルツ風の曲想です。妖精たちの踊りでしょうか。C - D - C'は、ソフトペダルを踏んで高音域のみを用いてハープのように奏でられる4拍子の静かな楽想で、その後、序奏の動機からなる楽想Eを挟んで、A'を再現、そして、新たな楽想Fが現れて曲を締めくくります。



たびたび大きく切り替わる曲想が、一体どのような物語を描いているのかと聴き手そして演奏者の想像を膨らませます。難易度は、同作曲者の《アルプスの夕映え》や《アルプスの鐘》と同程度ではないかと思われますので、小中学生あたりのレパートリーとして取り上げられてもよさそうな佳作だと思います。代表作の《人形の夢と目覚め》といい、メルヘンな世界観を描くのはエステンの得意とするところだったのかもしれません。



活人画, 運指付きでオクターブのない易しく性格的な子供の小品 Lebende Bilder, Leichte und caracteristische Kinderstucke mit Fingersatz und ohne Octavenspannungen Op.157

《活人画 Op.157》は、12曲から成る子供向けの易しい小品集です。どの曲も1ページに収まっており、演奏時間も1分前後です。副題にもあるようにオクターブが届かない手でも演奏ができ、また調号も♯や♭が1つのものまでしか出てきません。難易度はブルグミュラーの《25の練習曲》の前半程度といったところでしょうか。バイエルでは少し難しそうです。

曲集名の活人画というのは、扮装した人が背景の前に立ってポーズを取り、絵の中の人物のように振る舞うこと。今風に言えばコスプレのようなものでしょうか。各曲の表題にも、様々な職業やシチュエーションの人物(妖精なども含む)が登場しています。


第1巻
No.1 シチリアの漁師, 舟歌 Sicilianische Fischer, Barcarole
No.2 眠る子供, 子守歌 Schlummerndes Kind, Wiegenlied
No.3 コサックの娘, ディヴェルティメント Das Kosackenmadchen, Divertissement
No.4 薔薇園の若い婦人, メロディー Junge Damen im Rosengarten, Melodie





第2巻
No.5 ワイン職人, 牧歌 Die Winzerin, Idylle
No.6 鳥猟者, ロンディーノ Der Vogelfanger, Rondino
No.7 農民の婚礼, 結婚行進曲 Eine Bauernhochzeit, Hochzeitsmarsch
No.8 踊る子供たち, ポルカ Tanzende Kinder, Polka





第3巻
No.9 妖精の女王, ロマンス Die Elfenkonigin, Romanze
No.10 魔女の台所, スケルツォ Die Hexenkuche, Scherzo
No.11 メリュジーヌ
, メロディー Melusina, Melodie
No.12 ピアノの稽古, ロンディーノ Die Klavierstunde, Rondino

※メリュジーヌとは、フランスの伝承に登場する上半身が人間、下半身が蛇の姿をした妖精。





ついでに、エステンの生誕200年の際にTwitterでひっそりと公開していた2作品の録音をYouTubeに再UPしてみました。今回録音したOp.73-3、Op.157よりも音量が若干大きいのでご注意ください。


《愛の調べ, 6つのメロディー Klange der Liebe, 6 Melodien Op.50》 より 第1番〈5月の愛 Maienliebe〉

ハイネの詩集『歌の本』から引用された以下の詩がモットーに掲げられています。

Im wunderschonen Monat Mai,
Als alle Knospen sprangen,
Da ist in meinem Herzen
Die Liebe aufgegangen.
             Heine



私は独語に詳しくありませんが、日本語にすると以下のような感じでしょうか?

美しい5月に、
あらゆる蕾がはじけるとき、
私の心の中にも
愛が湧きあがった
             ハイネ



シューマンの歌曲集《詩人の恋 Op.48》の第1曲でも同じ詩が用いられていますが、曲調は全く異なります。シューマンの歌曲は、愛や季節の喜びを歌った曲でありながら、同時に不安も潜んでいるような嬰ヘ短調の不安定な曲想となっていますが、エステンの作品はト長調の明るく晴れやかな曲想です。曲の構成は以下の通りで、8分の12拍子の前半部と8分の6拍子の後半部で曲想が大きく分かれています。

前奏 - [A - B - A'] - [A - B - A']' - [C - D - C] - [E - F - E'] - C' - コーダ

前半部はA - B - A'の三部形式とその変奏から成っており、朗々としたメロディーが美しく、変奏部ではアルペジオを伴いオクターブで歌われるメロディーが華麗です。後半部のC - D - Cは、右手の1,2の指で内声に置かれた旋律を奏で、2~5の指で高音部の和音を鳴らします。中間部に相当するE - F - E'はハ短調の少し憂いも帯びた曲想で、コーダは小鳥の囀りを思わせる32分音符の動きが特徴的です。





《アルプスの薔薇, メロディーの花環 Alpenrosen, Melodienkranz Op.160》

エステンのアルプス関連作品というと《アルプスの夕映え Op.193》と《アルプスの鐘 Op.175》が発表会向けの小品として今日でも知られていますが、彼は《アルプスの薔薇 Op.160》という作品も残しています(これら3曲以外にもまだアルプスを題材にした作品を書いているようです)。《アルプスの薔薇》は、序奏に続いて、テンポの異なる様々な5つの楽想(Nos.1~5)が現れ、フィナーレでNo.1が再現されて終結する演奏時間7分ほどの作品です。序奏における(恐らく羊飼いの)笛の音とその山彦の描写、その後に続く牧歌的な旋律の数々はアルプスらしさがよく表れています。個人的には、《夕映え》や《鐘》より完成度も高い作品だと思っているのですが、それら2曲に比べて難易度が高い(特にNo.5の部分(動画の4:55あたりから)が難しい)割に演奏効果では劣っていそうな点、演奏時間が長い点がネックとなり発表会のレパートリーとして生き残ることが出来なかったのかもしれません。




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