Louis Lacombe (1818-1884)

ルイ・ラコンブ(Louis Trouillon Lacombe, 1818-1884)は、フランスのブールジュ出身のピアニスト・作曲家です。母親からピアノの手ほどきを受けた彼は、わずか7歳で舞台に立つほどの早熟さを示し、父親は息子の才能を開花させようと、1828年にパリへの移住を決意しました。その翌年に、ラコンブはパリ音楽院へ入学し、ジメルマン(Wikipedia)の門下となり、1831年にはピアノの選抜試験で一等賞を獲得してます。

1832年に音楽院を卒業してからは、両親や妹フェリシー(Félicie Lacombe)とともに、フランスやベルギー、ドイツで演奏旅行を行い、至る所で喝采を集めました。1834年にはウィーンを訪れ、そこでチェルニーにピアノを師事し、フィッシュホフ(Wikipedia)の下でバッハやベートーヴェン等の古典作品の演奏解釈を身に付けています。また、ゼヒター(Wikipedia)やザイフリート(Wikipedia)に就いて音楽理論も学んでいます。ウィーンでの滞在を終えると、再び演奏旅行を開始し、1840年まで[?]にはパリに腰を落ち着け、ヴィルトゥオーゾとしてのキャリアを捨てて作曲へと専念しました。パリに戻ってからも、彼の向上心は尽きておらず、バルブロー(Auguste Barbereau, 1799-1879)から和声法のレッスンを受けています。

ラコンブは、多岐のジャンルに渡る作品を手掛けました。1847年に初演された独唱と合唱、管弦楽による劇的交響曲《マンフレッド Manfred》は、ベルリオーズやフェリシアン・ダヴィッド(Wikipedia)らによる描写的な手法を取り入れた作品といわれており、その3年後にも同様の作品《アルヴァ、またはハンガリー人 Arva, ou Les Hongroises》(1850)を発表しています。また、合唱を伴うメロドラマ《サッフォー Sapho》は、1878年のパリ万博で受賞した成功作となりました。他には、《ヴィンケルリート Winkelried》(1892)等の歌劇(大部分は没後に初演された)、ピアノ三重奏曲(Opp.12, 42)、大五重奏曲(Op.26)、弦楽四重奏曲《城》(Op.92)などの室内楽曲、ピアノ曲、歌曲などの作品があります。ラコンブは、批評家としても活動しており、没後には評論集『哲学と音楽 Philosophie et musique』(1896)が刊行されています。


今回録音したのは、《自然の調べ Les Harmonies de Nature Op.22という曲集からの一曲です。Hofmeisterのカタログによれば、《自然の調べ》は、9曲から成る曲集として1846年頃にPeters社から出版されたようですが、後になって第10曲〈夜鳴き鶯 Le Rossignol〉が追加されたようです(フランス国立図書館の蔵書情報によれば、1873年にChoudens社から出版)。

各曲の表題は以下の通りです。

No.1 夜明け L'Aurore
No.2 小川 Le Ruisseau
No.3 森の静けさ Le Silence es bois
No.4 山岳にて Dans les Montagnes
No.5 砂漠 Le Désert
No.6 雷雨 L'Orage
No.7 急流 Le Torrent
No.8 雪 La Neige
No.9 夕べ Le Soir
No.10 夜鳴き鶯 Le Rossignol

今回録音したのは、超絶技巧的な作品も含む同曲集の中では比較的演奏難易度が低い第8曲の〈雪 La Neige〉です。雪を題材にしたピアノ曲というと、リストの《超絶技巧練習曲》の〈雪嵐〉、ドビュッシーの《子供の領分》の〈雪は踊っている〉及び《前奏曲集第1巻》の〈雪の上の足跡〉、パルムグレンの《粉雪 Op.57-2》等が挙げられますが、19世紀までに書かれた雪を題材にしたピアノ曲は意外と少ないように思えます(先程挙げた作品もリストを除けば20世紀に入ってからのもの)。





ラコンブが描いた雪は、犬が庭を駆け回って、猫が炬燵で丸くなるような楽しげな情景ではなく、死を連想させる厳しい冬の情景のようです。楽譜の外表紙には以下のような詩が書かれています。

Hélas! combien sont morts qui n'eurent pour linceul qu'une couche de neige!



和訳すると次のような感じでしょうか。

ああ!どれほどの者が雪の層のみを屍衣として纏って死んだことか!



linceulというのは、死者を埋葬する際に覆う白布のことで、それを雪の白さに重ねているのでしょう。

なお、この詩の作者は楽譜には書かれておらず、Googleで検索しても特にヒットはしませんでした。ラコンブ自身によるものなのかもしれません。


曲の冒頭部分は、スタッカートで奏でられる高音のモチーフがチラチラと舞う雪を思わせます。一定のリズムで刻まれる低音は、地面に積もりゆく雪でしょうか?それとも、雪上を行く人の足取りでしょうか?それとも、雪の精の踊りでしょうか?所々で挟まれる低音のフェルマータは弔鐘を表しているのかもしれません。

吹雪のようなトレモロを挟んで入る中間部では、3拍子が4拍子になり、スタッカートで刻まれるバスの動きが特徴的な重々しい曲想になります。複付点8分音符のリズムも特徴的で、これはもしかすると葬送行進曲を意識しているのかもしれません。その後、再び3拍子に戻り、冒頭の主題が再現され消えゆくように曲が終わります。

低音部と高音部の巧みな使い分け、特徴的なリズムの使用によって厳しい冬の情景を見事に描写した発想力に富んだ佳作であると思います。同曲集の他の作品もいつかMIDIの作成をしてみたいものです(自分で弾くのは厳しそう)。

なお、同曲集の第4曲〈山岳にて〉は、金澤攝氏による演奏がPTNAで公開されています。

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