FC2ブログ

Oscár de la Cinna (1836-1906)

スペインのピアノ音楽というと、どのようなものが思い浮かぶでしょう。イサーク・アルベニスやグラナドスの作品あたりではないかと思います。では、彼らが現れる以前のスペインのピアノ音楽はどのようなものだったのでしょうか。全くといってよいほど知られていないのが現状でしょう。アルベニスが作曲家として表舞台に立つのは1880年代になってからですが、それ以前となると、ドメニコ・スカルラッティやアントニオ・ソレールなどチェンバロの時代まで遡らないといけないほどかもしれません。すなわち、100年ほどの空白期間が存在しています。

では、18世紀後半から1880年頃にかけてスペインには全くピアノ音楽の作曲家がいなかったのでしょうか。当然、そのようなことはありませんし、決して取るに足らない作品しか生み出されていなかったわけでもありません。いくらか名前を挙げてみます。

ペドロ・アルベニス (Pedro Albéniz,1795-1855)
ニ長調のソナタによって名前が知られるマテオ・アルベニス(Mateo Albéniz, 1755頃-1831)の息子。スペインで初めてピアノ奏法書を刊行した[1]。イサーク・アルベニスとは血縁関係なし。

サンティアゴ・デ・マサルナウ (Santiago de Masarnau, 1805-1882)
アルカンの友人で、《3つの華麗なスケルツォ Op.16》を献呈されている。

ペドロ・ティントレール (Pedro Tintorer, 1814-1891)
ペドロ・アルベニスの弟子で、フランツ・リストからもレッスンを受けた。

フランシスコ・デ・ラ・リバ (Francisco de la Riva, 1816-1876)

マルティン・サンチェス・アルー (Martín Sánchez Allú , 1825-1858)

マルシアル・デル・アダリド (Marcial del Adalid, 1826-1881)

アドルフォ・デ・ケサダ (Adolfo de Quesada, 1830-1888)

エドゥアルド・オコーン (Eduardo Ocón, 1834-1901)

フェリペ・ペドレル (Felipe Pedrell, 1841-1922)
イサーク・アルベニスの師

テオバルド・パワー (Teobaldo Power, 1848-1884)
カナリア諸島出身で、同地の州歌の作曲者

[1] 西原稔『ピアノ大陸ヨーロッパ 19世紀・市民音楽とクラシックの誕生』 p.245


今回録音したのはオスカル・デ・ラ・シンナ(Oscar de la Cinna, 1836-1906)というピアニスト・作曲家による2つの小品です。

シンナは、ハンガリーのブダペスト出身で、チェルニーに師事し、欧州各地を旅行した後、最終的にスペインのセビリアに定住しました。多数のピアノ曲を残し、作品番号は少なくとも892にまで達しており、多作家として知られる師を凌ぐほどです。

シンナは異邦人でありながらスペイン色豊かな作品を数多く残しました。さしずめ「19世紀のスカルラッティ」とでも呼べそうな存在です。その作風からは、25歳ほど年下のイサーク・アルベニスへと繋がるものを感じられます。もっとも、後半生はアルベニスの活動時期とも重なるので、年下のアルベニスから影響を受けた可能性もあります。しかし、1870年代の作と思われる(スペイン国立図書館のカタログ情報では1873年)《マラゲーニャ, 性格的小品, アンダルシアのムーア人の様式 Op.69》の時点でも民族的な作風が十分に確立されているのに鑑みると、アルベニスがシンナから何らかの影響を受けていたとしても不思議ではありません。なお、この《マラゲーニャ Op.69》は、鍵盤上に爪を滑らせて音を出す、ピアノの木製部分を叩いて音を出すといった特殊奏法が使われているという点でも興味深い作品です。


録音した一曲目は、フルタイトルが仏語に独語も混じっていて長いですが、《クレオールのコントラスト, 微睡と目覚め, クレオールの苦悩と喜び, 詩的な想い Contrastes créoles, Somnolence et reveil, Der Creolin Leid und Lust, Pansée poétique Op.103》という作品です。ビゼーの《カルメン》などスペインを題材にしたロマン派作品ではお馴染みのハバネラのリズムが用いられており、哀愁を帯びた旋律が魅力的な小品です。





二曲目は、《マラゲーニャ第7番 Malagueña No.7 Op.816》です。作品番号からわかるように晩年の作品で、20世紀に入ってからの作品かもしれません。まさにアルベニスを思わせる作風の小品で、ギターを掻き鳴らす様子やフラメンコの独特な歌い回しが表現されています。



スポンサーサイト

コメント

非公開コメント