Carl Haslinger (1816-1868)

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▲Carl Haslingerの肖像 Österreichische Nationalbibliothek より 加工・転載

本日はオーストリアのピアニスト・作曲家カール・ハスリンガー(Carl Haslinger, 1816-1868)の生誕200年ということで、彼の作品を録音してみました。

カール・ハスリンガーは、作曲家トビアス・ハスリンガー(Tobias Haslinger, 1787-1842, Wikipedia)の息子としてウィーンに生まれました。トビアスは、楽譜出版業者として有名で、ベートーヴェンやシューベルト、ヨハン・シュトラウス1世、シュポーア、フンメル、リストなどの作品を出版を手掛けており、特に、ベートーヴェンと親交が深かったことが知られています。また、作曲家としては初級者向けのソナチネが今日でも親しまれています。

息子カールは、父トビアスから音楽の手ほどきを受け、その後、チェルニーにピアノ、ザイフリート(Ignaz von Seyfried, 1776-1841)に作曲を師事しました。作曲家として活動する傍ら、1842年に父が死去すると、その出版業を引き継いでいます。彼は、30年間に亘って、たびたび夜会を主催し、国内外の傑出した音楽家たちと共に、古今の優れた作品を聴衆に披露したといいます。エルンスト・パウアーによれば、「ハスリンガーは、ウィーンの最も腕利きの音楽家の一人であり、若い芸術家たちの友人やパトロンであり、生来の親切さや喜ばしい愛想のよさによって広く愛されていた」そうで、人望の厚い人物であったことが窺えます。彼の死後、出版事業は未亡人によって引き継がれましたが、1875年にロベルト・リーナウ(Robert Lienau, 1838-1920)が運営するベルリンのシュレジンガー(Schlesinger)社に買収されています。

ハスリンガーは、作曲家として様々なジャンルの作品を残しました。歌劇《ワンダ, カリフォルニアの娘 Wanda, das Mädchen von Californien》、シラーの詩によるカンタータ《鐘 Die Glocke》(Op.42)、交響カンタータ《ナポレオン Napoleon》、ピアノ三重奏曲(Op.36)、ヴァイオリンソナタ(Op.35)、チェロソナタ(Op.39)、ピアノと管弦楽のための序奏と変奏曲とロンド《ライン川の旅 Voyage sur le Rhin》(Op.1)、歌曲、多数のピアノ小品などがあります。

  1. Pauer, Ernst (1895), A dictionary of pianists and composers for the pianoforte with an appendix of manufacturers of the instrument, London: Novello; New York: Ewer and Co. p.46


今回演奏したのは、バイエルン公マクシミリアン(Wikipedia)に献呈された《2つの情景 2 Scenen Op.102》の第1曲《湖で Auf dem See》です。「湖で」という表題を見て、まず、私は舟歌のような作品を想像しましたが、予想とは大きく異なりました。舟遊びを楽しむような穏やかな湖というよりは、むしろ、嵐の中の波立った湖という感じで、ローレライ伝説のように、水妖が舟人を誘惑し水底に引きずり込んでしまうような情景を私は想起しました。

序奏-A-B-A-コーダの三部形式で、序奏とAではトリルの音型が多用されており波立つ湖面を思わせます。中間部Bは長調の優美な曲想になりますが、コーダは稲妻が迸るように劇的な曲想で、私は前者から水妖の誘惑、後者から水底に引きずり込まれる舟をイメージしました。序奏と中間部の終わりに楽譜中にQuasi Recitativoと記されたレチタティーヴォ風の楽想が挿入されるのも特徴的です。せわしない16分音符の動きや頻繁に現れる減七の和音が不穏な雰囲気を見事に描出しており、ドラマティックで緊迫感に満ちた傑作であると思います。また、演奏は決して易しくありませんが、演奏効果は実際の難易度以上にあるように思えますので、是非、広く演奏されてほしい小品です。楽譜こちら(バイエルン州立図書館)で閲覧できます。



カール・ハスリンガーは、作品番号にして130ほどの作品を残していますが、私が楽譜を確認できたのは10点ほどに過ぎません。その中にはベルリオーズへのオマージュである《亡霊, 幻想曲 Le Fantôme, Fantaisie Op.38》(参考楽譜)もあります。今回演奏した《湖で》を見て、カール・ハスリンガーは出版業者としてだけではなく、作曲家としても非凡な才能をもった人物であるように感じられました。シューマンもハスリンガーのOpp.1, 6, 8, 11の批評を残しており、彼の才能を高く評価しています。是非とも、他の作品をもっと見てみたいものです。曲名を見て個人的に気になったのは、《気球乗り, ロンド Die Luftschiffer, Rondo Op.11》や《ヘンデルの「メサイア」のハレルヤによる幻想曲 Fantaisie über das Alleluja aus Händel's Messias Op.37》という作品です。後者はあの有名な旋律を編曲したものでしょうか?

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